「多くの患者さんが『なんの虫か分からない』と駆け込んできますが、実は季節と場所を考慮するだけで犯人はほぼ絞り込めるんですよ」。長年、皮膚科の外来で数多の虫刺され被害を診てきた医師、松本先生は穏やかに語ります。松本先生によれば、痛みを伴う虫刺されにおいて、私たちが犯人を誤解しやすい「三大要因」があると言います。第一の要因は、ガーデニング中の「イラガ」の幼虫です。これは通称「デンキムシ」と呼ばれ、葉の裏に潜んでいますが、触れた瞬間にバチッと電気が走ったような激痛が走ります。「ハチに刺された」と思い込んで来院される方が多いですが、傷跡が細かな点状に広がっているのが特徴です。回避術としては、庭仕事の際はたとえ暑くても長袖と厚手の手袋を徹底することに尽きます。第二の要因は、近年増えている「ヒアリ」や「アカカミアリ」といった外来種のアリです。これらに刺されると、針で刺されたような鋭い痛みとともに、火傷のような膿疱ができることがあります。靴の中に潜んでいたり、サンダル履きの足を狙われたりするため、地面に直接座らない、あるいは芝生を歩く際の足元への注意が欠かせません。第三の要因として、松本先生が特に注意を促すのが「アブ」の被害です。アブは牛や馬がいる環境だけでなく、キャンプ場などの自然豊かな場所にも多く、吸血の際に皮膚を物理的に損傷させるため、刺された瞬間がとにかく痛い。松本先生は、「痛い虫刺されは、その後のアレルギー反応が激しく出やすい」と警告します。一回目の被害は痛みだけで済んでも、二回目に同じ虫、特にハチ類に刺された際には、アナフィラキシーを起こすリスクが高まるからです。プロの視点から見た最強の回避術は、何よりも「虫のパーソナルスペースを侵さない」ことです。ハチであれば巣の半径五メートル、アブであれば自分自身の周りを飛ぶ羽音に敏感になる。また、黒い衣服は多くのハチやアブを刺激するため、屋外では白やベージュなどの明るい色を選ぶという基本的な対策が、実は最も医学的にも理に適っているのです。「痛い」という信号は、身体からの「逃げろ、そして冷やせ」という警告です。その声を無視せず、適切な処置を行うとともに、なぜ刺されたのかという原因を究明することで、次なる被害を未然に防ぐ知恵を養いましょう。松本先生の言葉は、自然を愛でる一方で、その鋭い牙を正しく恐れることの大切さを私たちに教えてくれます。
専門家が明かす痛い虫刺されの正体とその回避術