キッチンやリビングで、壁に止まっていたり、ひらひらと力なく飛んでいたりする、あの小さな蛾。その正体は、ほぼ間違いなく「ノシメマダラメイガ」という種類の蛾です。成虫は体長一センチ程度で、翅の根元側が白っぽく、先端側が茶褐色という、ツートンカラーが特徴です。彼らは、一体どこからやってくるのでしょうか。その発生源は、あなたが大切に保管しているはずの、キッチンやパントリーの「食品」そのものなのです。ノシメマダラメイガの成虫自体は、食事を摂ることはほとんどなく、その短い寿命を子孫を残すためだけに費やします。問題なのは、その幼虫(イモムシ状)です。メスの成虫は、幼虫の餌となる、乾燥した植物質の食品に卵を産み付けます。その範囲は驚くほど広く、米や小麦粉、そうめんやパスタといった穀物類、シリアル、ビスケット、チョコレートなどのお菓子類、ナッツやドライフルーツ、さらにはペットフードや漢方薬に至るまで、実に様々なものが彼らの繁殖拠点となります。侵入のシナリオは、主に二つ考えられます。一つは、購入した食品の袋に、生産や流通過程で、すでに目に見えない卵が産み付けられていたケース。そしてもう一つは、家のどこかから侵入した成虫が、輪ゴムやクリップで留めただけの、密閉が不完全な食品の袋の隙間から巧みに侵入し、内部で産卵するケースです。卵から孵化した幼虫は、その食品を食べて成長し、成長の過程で、ネバネバとした糸を吐き出します。そのため、発生源となった食品の中をよく見ると、粉が蜘蛛の巣のように固まっていたり、黒い小さなフンが混じっていたり、あるいは幼虫の抜け殻が見つかったりすることがあります。これが、発生に気づくための重要なサインです。そして、十分に成長した幼虫は、蛹になるために食品の中から這い出し、やがて成虫となって、新たな産卵場所を求めてキッチンを飛び回るのです。もし、キッチンで小さい蛾を見つけたら、まずはパントリーや食品庫を徹底的にチェックしてください。あなたの知らないうちに、いずれかの食品が、彼らの「巣窟」と化している可能性が極めて高いのです。