衣替えの季節、久しぶりにクローゼットの扉を開けると、そこから小さな蛾がひらひらと飛び出してきた。そんな経験はありませんか。あるいは、大切にしまっておいたはずの、お気に入りのウールのセーターに、ぽつりと小さな穴が開いているのを見つけて、愕然としたことは。その犯人は、あなたのクローゼットの中に静かに潜んでいる「イガ」や「コイガ」といった、衣類を食べる蛾の仕業である可能性が非常に高いです。これらの蛾は、成虫でも体長一センチに満たない、地味な色合いの小さな蛾です。彼らは光を嫌い、暗く、人の動きが少ない場所を好むため、長期間閉め切ったままのクローゼットやタンス、押し入れは、彼らにとって最高の住処となります。しかし、ここで正しく理解しておくべき重要な事実があります。それは、成虫の蛾自体は、あなたの服を食べることはない、ということです。彼らの口は退化しており、食事を摂ることはありません。その短い一生の目的は、ただ子孫を残すことだけです。本当の犯人は、その成虫が産み付けた卵から孵化した「幼虫」なのです。イガやコイガの幼虫は、白っぽいイモムシ状の姿をしており、彼らが主食とするのは、ウールやカシミヤ、シルク、あるいは毛皮や羽毛といった、「動物性繊維」に含まれる「ケラチン」というタン-パク質です。彼らにとって、私たちの高級なセーターやコートは、栄養満点のご馳走なのです。では、なぜ彼らがクローゼットの中に発生するのでしょうか。その最大の原因は、収納されている衣類に付着した「目に見えない汚れ」です。一度でも袖を通した衣類には、私たちの汗や皮脂、フケ、あるいは食事の際に飛んだ食べこぼしのシミなどが付着しています。これらの汚れは、ケラチンと同様に、幼虫にとっての栄養源となります。そのため、たとえ綿や化学繊維の衣類であっても、これらの汚れが付着していると、その汚れを食べる際に、周囲の繊維まで一緒に食い破ってしまうのです。クローゼットで小さな蛾を見つけたということは、それは単なる一匹の迷い込んだ虫ではありません。それは、あなたの見えないどこかで、大切な衣類が静かに、しかし確実に蝕まれていることを示す、危険な警告サインなのです。
クローゼットの蛾は服を食べるサイン