キッチンやパントリーで保管していたはずの、乾麺や小麦粉、パン粉の袋を開けてみると、中から茶褐色から黒褐色の、丸くて小さな甲虫がぞろぞろと出てきた。そんな、食欲を一瞬で奪い去るような恐怖体験をしたことはありませんか。その虫の正体は、「シバンムシ」である可能性が非常に高いです。シバンムシは、漢字で「死番虫」と書かれ、その名の通り、乾燥した動植物質なら何でも食べてしまう、食品庫の厄介者です。日本で家庭内に発生するのは、主に「ジンサンシバンムシ」と「タバコシバンムシ」の二種類です。体長は二ミリから三ミリ程度で、ずんぐりとした丸い体型をしています。彼らは、刺激を与えると脚や触角を縮めて「死んだふり」をするという、ユニークな習性を持っています。彼らが好むのは、乾燥していて栄養価の高い食品です。小麦粉や素麺、パスタといった穀物製品、ビスケットや乾パン、唐辛子やコショウ、ハーブなどの香辛料、乾燥しいたけ、ペットフード、そして漢方薬に至るまで、その食害範囲は驚くほど広範囲に及びます。また、食品だけでなく、畳の原料である乾燥したワラも好物であるため、和室で大発生することもあります。シバンムシの被害は、私たちが購入した食品に、もともと卵や幼虫が混入しているケースと、家のどこかで発生した成虫が、密閉が不完全な食品の袋を食い破って侵入するケースがあります。一度発生を許してしまうと、その繁殖力は非常に高く、あっという間に他の食品へと被害が拡大していきます。対策は、まず発生源となった食品を特定し、もったいないと感じても、袋ごとビニール袋に入れて密封し、潔く廃棄することです。そして、食品を保管していた棚や引き出しを徹底的に清掃し、こぼれた粉などを完全に除去します。予防のためには、粉製品や乾物は、購入後はすぐに密閉性の高い容器に移し替え、冷蔵庫で保管するのが最も安全です。この小さな丸い侵略者は、あなたのキッチンを静かに、しかし確実に蝕んでいくのです。