ある日突然庭の木や家の壁に数千匹もの蜂がびっしりと集まって巨大な黒い塊を作っているのを目撃したら誰でも恐怖でパニックになるでしょうがこれは分蜂(ぶんぽう)と呼ばれるミツバチ特有の習性であり決して襲撃の準備をしているわけではありません。分蜂とは新しい女王蜂が生まれた際に古い女王蜂が巣の働き蜂の約半数を引き連れて元の巣を出て新しい住処へと引越しをする現象のことです。この蜂球(ほうきゅう)と呼ばれる塊の中に女王蜂が一匹守られており周囲の働き蜂たちは偵察部隊が新しい巣に適した場所を見つけて戻ってくるまでの間一時的にそこで待機しているのです。この時のミツバチたちは引越しのための食料としてお腹いっぱいに蜂蜜を蓄えているため性格は極めて温厚であり人間側から手を出したり押しつぶしたりしない限り刺してくることはまずありません。見た目のインパクトは強烈ですがスズメバチの巣のような危険性はなく通常は数時間から数日でどこかへ飛び去っていきます。そのためもし自宅の庭で分蜂を見かけたとしても殺虫剤を撒いて駆除するのではなくそっとしておくのが最も賢明な対応です。ミツバチはイチゴやメロンなどの農作物や自然界の草花の受粉を助ける非常に重要な益虫であり世界的にその数が減少していることが問題視されています。無闇に殺すことは生態系にとっても損失であり人間にとっても恩恵を失うことにつながります。しかしどうしても場所が悪く生活に支障がある場合や数日経ってもいなくならない場合は自分で駆除しようとせず地元の養蜂家や役所に相談してみてください。養蜂家にとって分蜂群は新たな蜜源となる貴重な資源であるため無料で喜んで回収に来てくれるケースが多くあります。日本ミツバチの分蜂群などは愛好家の間では高値で取引されることもあるほどです。ただしミツバチとよく似ていますが屋根裏や床下などの閉鎖空間に恒久的に巣を作ろうとして入り込んでいる場合は分蜂の一時待機ではなく営巣の開始であるためその場合は早期の対処が必要です。またスズメバチやアシナガバチには分蜂という習性はなく集団で固まっている場合はそれは巣そのものである可能性が高いため混同しないように注意が必要です。ミツバチの分蜂は春から初夏にかけての風物詩とも言える生命の営みでありその正体を正しく理解していれば恐怖に怯えることなく彼らの旅立ちを温かく見守ることができるはずです。蜂というだけで敵視するのではなく種類や状況を見極めて共存の道を模索することも私たち人間に求められる姿勢なのかもしれません。