それは、真夏の太陽が容赦なく照りつける、八月の昼下がりのことでした。我が家の二階の窓のすぐ外、軒下の隅に、見慣れないボールのようなものがぶら下がっているのに気づいたのです。マーブル模様の、バレーボールほどの大きさの、それは紛れもない、スズメバチの巣でした。その瞬間、私の心臓は氷水に浸されたように冷たくなりました。窓を開けることはもちろん、カーテンを開けることさえ恐怖でできません。我が家の一角が、凶暴な侵略者によって完全に占拠されてしまったのです。すぐに専門の駆-除業者に連絡しましたが、依頼が殺到している時期で、来てもらえるのは三日後だと言います。それまでの三日間、私は、まるで要塞に立てこもる兵士のような気分で、息を殺して過ごしました。そして、約束の日。防護服に身を包んだ二人の作業員が、静かに、しかし確かな足取りで我が家にやってきました。彼らの手には、私がドラッグストアで見るものとは明らかに違う、業務用の強力そうな殺虫剤のスプレー缶が握られていました。一人が、長い棒の先に付いた特殊なノズルを、ゆっくりと巣の入り口に差し込みます。もう一人が、その合図を待っています。そして、短い合図と共に、高圧の薬剤が、轟音を立てて巣の中へと注入されていきました。その瞬間、巣は、まるで内側から爆発したかのように、何百というスズメバチを吐き出しました。羽音と、薬剤の噴射音と、そして私の心臓の鼓動だけが、その場の空気を支配していました。作業員たちは、その地獄絵図のような光景にも一切動じることなく、冷静に、的確に、空を舞うハチたちを次々と撃ち落としていきます。その姿は、熟練の戦士そのものでした。十分ほど続いたでしょうか。あれほど猛威を振るっていた羽音は、いつしか完全に止んでいました。作業員の一人が、静かに巣を切り落とし、大きな袋に入れて、私に見せてくれました。「もう大丈夫ですよ」。その言葉に、私はようやく、張り詰めていた息を吐き出すことができたのです。あの日の体験は、私に自然の脅威と、そして、その脅威に立ち向かうプロフェッショナルの技術と勇気を、強烈に教えてくれました。そして、スズメ-バチ用の殺虫剤は、単なるスプレー缶ではなく、私たちの平和な日常を守るための、最後の切り札なのだということを。
私がスズメバチの巣と対峙した日