あれは、夏の終わりの静まり返った深夜のことでした。庭に干したままだった洗濯物を回収しようと、裸足にサンダルという無防備な格好で勝手口から一歩踏み出したその瞬間、私の右足の親指に「バチンッ」という、火花が散るような衝撃的な激痛が走りました。あまりの痛さに声も出ず、その場にうずくまりましたが、暗闇の中では何が起きたのか全く分かりません。ただ、何かに鋭く刺された、あるいは噛まれたということだけが確信できました。家の中に転がり込み、明るい光の下で足を確認すると、そこには針で突いたような小さな穴が二つ並び、みるみるうちに周囲が紫がかって腫れ上がってきました。「毒ヘビか、それとも巨大なムカデか」。パニックになりながらも、私は必死にスマートフォンの検索窓に「虫刺され、痛い、二つの穴、なんの虫」と打ち込みました。そこでヒットしたのは、地面に潜むオオスズメバチや、深夜に活動する大型のムカデの被害報告でした。結局、翌朝になって庭を点検した際、植木鉢の影から這い出してきた十五センチほどのムカデを見つけ、ようやく犯人を特定することができました。この体験は、私に「夜の自然」を舐めてはいけないという手痛い教訓を与えてくれました。ムカデは夜行性であり、湿気を求めてコンクリートの隙間や玄関先に現れます。彼らにとって、私の足は突然上から降ってきた巨大な外敵に過ぎず、彼らはただ必死に自衛のために武器を振るっただけなのです。しかし、その自衛の一噛みは、私を一晩中激痛でのたうち回らせ、数日間は歩行困難にするほどの威力がありました。あの日、もし私がライトを持ち、靴を履いていれば、この悲劇は防げたはずです。虫刺されの痛みは、常に私たちの「油断」の隙間を突いてやってきます。正体が分からない時の恐怖はパニックを増幅させますが、冷静に傷口を観察し、状況証拠を積み重ねることで、自ずと対処法は見えてきます。私はあの夜、パニックの中で患部を冷やし続けてしまいましたが、後で調べたところ、ムカデの毒成分の中には熱に弱いものもあり、刺された直後なら温水で洗うのが正解だったということも知りました。虫の正体を知ることは、正しい治療への最短距離なのです。今では、深夜に庭へ出る際、私は必ずライトを照らし、足元の「影」に細心の注意を払っています。あの時の激痛の記憶は、今も私の右足に微かな違和感として残っていますが、それは自然との境界線を守るための大切な戒めとなっています。
深夜の庭で遭遇した正体不明の激痛とその教訓